STAP細胞騒ぎ 根本から間違っていないのか(その1)
小保方晴子氏の『STAP細胞論文』騒動について
細胞生育史系;細胞分化再生の発生分子生物学における基本問題を問う
ScienceCritique-WebJournal「風そして嵐」 /2014.04.13
大変な騒動となったSTAP細胞の論文発表について,研究業界・マスメディアは,発生分子生物学において,基本的なことで無理解があり,それが,様々な誤解と生み出しているのではないかと思えるので,敢て,このレポートを為したものである;STAP細胞について論評するときは,発生分子生物学からいえる,基本的な以下の二つの視点を充分認識して言動をなされてほしい.だから小保方氏らSTAP細胞研究者もマスメディアからの取材・報道の場面ではこの基本認識を相手方が理解されているかについてよく読んで発言した方がいい.
※この基本認識はまた論文発表共同研究者も(小保方氏ご本人自身もと思える節がある)言えることである.というのは Wikipediaの検索記事でさえ,STAP細胞の様態について誤解があるからである.
STAP細胞研究発生分子生物学からの基本的視点
①‘STAP細胞はある・ない’ではなく,どのようなSTAPかの問題である.
②遺伝子の変異発現には,2形態がある;
一つは〈確率的な発現〉であり,
もう一つは〈特定条件による必然的な発現〉である.
STAP細胞現象は,前者の場合である.
STAP細胞とは
※以下の文中でのSTAP細胞についての記述は Wikipediaを参照したが必ずしも文言は同じでない.いくつかの重要な点で改変したことをお断りしておく.
刺激惹起性多能性獲得細胞
Stimulus-Trigered Acquisition of Pluripotency複数性・多元性Cells
/動物の体細胞に 外的刺激ストレスを与えて,分化多能性を獲得させた細胞/
である.これをSTAP細胞の規定にして以下に考察しよう.
そもそもSTAP細胞の仮説に至る研究の発端は,「動物の中でもイモリは,器官部位を傷つけるなど,外部からの刺激を与えれば,その部位の細胞に生育できる再生能※1)を持っている.これは人も含めた哺乳類にも,この原初的機能を持っている細胞がある:そういう遺伝子能を保持している,あるいは進化過程を複製して,進化の過程でも失われないで※2)細胞自身の個の育成に遺伝子機構で保持しているのではないのか.」ということであったという.
※1)は,一般的には(Wikipediaでも)「万能細胞化」と言っているが,そういう概括ができないコンセプトであることに注意してほしい.iPS細胞の場合は,まさにあらゆる部位のへの進化生育能をもった万能細胞であり,〈分化万能幹細胞〉といえる.STAP細胞はこれとは異なり,〈複数性・多元性の能力獲得〉を持った細胞である.その能力は,再生性;再び生体のその部位細胞になりうる能力もあり,無限増殖性もあり,部位機能の複数性の獲得もありうる/というものである.こうした多能機能の細胞への振り戻しがSTAP細胞である.誤解なさらないようにしてほしい.
※2)は,H大学のC.バカンティ教授らは,「分化した組織内に小型の細胞が極少数存在しているのではないか」という仮説を立てて,探究してきたものであるが,その実験の過程で.小保方氏が,それはむしろ,〈幹細胞は在って,それを取り出すのではなく,操作によってできているのではないか〉というコペルニクス的発想転換をして,実験でそれを探究してきたものである.
部位機能喪失細胞に対しての自己補修能がなければ,生物個体は存在しえなのであり,それは細胞・遺伝子機構の進化学からも重要な視点である.日本の分子生物学には,遺伝子機構に取り込まれた,このような進化学的変異・変化・発達の観点が欠落している向きがある.それで,Wikipedia記載者の記述とは異なって,※2)を追記して,これを強調したものである.
1) STAP現象は‘普通に起こる’.問題はどのようなSTAP細胞であるのかということ
細胞生育史系の4形態
生体部位でその特化した機能性を持った細胞に生育する形態は,いくつかに分類される.細胞の成育史系で,A;入れ替え補充・補強・修復ができる細胞と,B;‘その部位において構成要素は新しいものと入れ替えるが,機能単位の個として一生変らない細胞’に分かれ,更には,C;途中で損傷・変異して変異したままでその部位機能体の一部を構成しているもの,そしてD;全く機能性を分担しないで,増殖性にのみ特化した細胞,すなわちがん性細胞である.
細胞生育史系の3レベル
変異形態だけではなく,細胞成育史系のレベルの視点も重要である;
分化万能性機能を持ったものを幹細胞と呼んでいるが,その生育史系も,このあらゆる部位細胞に生育する分化万能性細胞だけでなく,特定のその部位の細胞に生育できる固有育成性のある細胞もありうる;このSTAP細胞で,皮膚細胞などAのように再生:自己修復性ができる部位細胞ではなく,心筋細胞などBのような場合の,その部位の組織細胞に分化再生を止めた細胞においても,この部位の細胞の始原に戻って,再び細胞分化;育成生産性を獲得できる分化生育能を獲得したSTAP細胞がありうる.
今回の小保方氏らの研究は,その可能性を見出す契機となるものであった.今後のこの視点分野の系統的な研究もなされることとなるので,この細胞を‘その部位の幹細胞’とも言えるが,改めて〈部位再生性STAP細胞〉と概括する.あるいは〈枝元STAP細胞〉と呼んだ方が分りやすかろう.
以上から,細胞分化発達・生育史レベルは,3段階になる.
分化万能性を持った幹細胞 ⊃ 特定の部位の生育始原となる枝元STAP細胞⊃特定の部位細胞
がん性細胞変異の解明につながる
細胞変異の典型は発癌である.がん性細胞とは,正常な遺伝子群による正常な機能を持つ器官・部位の生体細胞から,ある一定の内的,あるいは外的作用によって,機能の機構変異,それを指示する遺伝子によって,増殖性のスウッチが入り,器官部位の機能を果たしながら,あるいはその仕事を為さないで,無限増殖をする.それが癌性細胞である.こうしたがん性細胞の発生は器官部位へ分化多能性ではないが,その部位の細胞に寄生生存できる,自己増殖性に特化した一つの変異細胞である.これはその変異様態は,STAP現象と同型の部分があり,だからこそ,STAP細胞の研究が,がん性細胞変異の解明とその治療に関わる重要なテーマともなりうるということである.
このようなことがら言えば,‘STAP細胞が存在するのかどうか’ではなく,探究されることはどのようなSTAP現象なのか;その細胞は細胞発育のどのような段階の細胞なのか,その細胞のもつ機能は,どのような複合機能性なのか/ ということである.
細胞生育史系で,全ての分化の大本となるのは胚細胞・ES細胞等の〈分化万能幹細胞〉であるが,これだけの視点ではなく,〈部位の枝元幹細胞〉もあるということである.問題はその変異が育成のどの段階まで遡って成されたもののであるかである.この細胞育成進化の度合いを必ず,認識して探究・議論,発表してほしい.
医療への応用が期待されるのは,部位細胞の生育進化の根元に位置付き,すべての部位細胞に生育する万能性の幹細胞だけでなく,その部位に特定化されて,その部位で生育し,その部位で機能を共同できる細胞の始原となる細胞である.この細胞もまた,再生医療では重要となろう.STAP細胞の研究は,部位細胞修復再生性の可能性の探究であり,さらには変異形態Dのがん性細胞の発芽・発育の様態の解明に繋がるものである.
2)遺伝子変異は外からの作用に対して,その変異現象の出現には二通りある.
これを認識してないと,細胞変異:遺伝子変異発現は 理解できない.
A;確率的発現:遺伝子の確率的変異現象
B;必然的発現;外的作用で遺伝子の特定の複合機能群が変異する現象
★ Aの事象は 更に高度な解析によって,発現の環境条件が特定化され,Bの事象となることもある.しかし 全てがそうとはいえなく,原理的に 確率的発現の現象である場合もある.このことも留意しておくようにしたい.遺伝子による発現現象は サイコロを振って結果を出す:現象化する事象もあるということを キチンと認識してほしい.遺伝子・分子発生生物学は チョウド 量子力学の世界と事象が似たところがあるということ.
iPS細胞は特定の外部作用によって発現するBの現象であるが,今回のSTAP細胞は,Aの確率的変異現象である;外部から,その細胞にフィットしたストレスを与えると,細胞に変異が起こる.その変異は遺伝子変異であり,その発現は,確率的に起こる/ ということである.このことの認識が間違っていると,‘理解の混乱’が生まれ,再実験の失敗で即否定となり,論文評価の混乱が生まれる.